少年シニア 55歳から学ぶ理科

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№19📕火星版プロジェクトXについて

 

ローバー、火星を駆ける―僕らがスピリットとオポチュニティに託した夢

 

 

【使用教材】書名 ローバー、火星を駆ける

 著者 Sスクワイヤーズ 訳者 桃井緑美子 

 2007年9月刊  早川書房
      

                   

 私が7月に宇宙博に行った時、2012年に火星に着陸した移動探査機「キュリオシティ」は展示されていましたが、2004年に火星に着陸した「スピリット」と「オポチュ二ティ」は展示されていませんでした。すでに忘れられた存在なのでしょうか。実はこの2機の稼働期間は90ソル(ソルは火星の1日で約24時間39分)と設定されていましたが、2機ともこのノルマを楽々とクリアし、スピリットは約6年間、オポチュ二ティに到っては10年後の今も老体鞭打って探査を続けています。だから決して忘れてはいけない存在なのです。

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 本書は、この2機のローバー(移動探査機)の開発責任者が、実現に到るまでの過程を本音で書き下ろしたドキュメントです。そこで明らかにされるのはプロジェクトx(NHKの製品開発のドキュメント番組)も顔負けの二転三転のドラマです。ただドラマと言っても、技術面での苦労だけでなく、ざっとあげただけでこんな課題が押し寄せてきます

・大きな探査成果をあげつつコスト・技術面で実行可能な計画であることをどうNASAにプレゼンして、チームとして選ばれるか。

・提案実現のための最強スタッフをどう集めるか。

・競争相手のチームに進捗状況がもれぬよう、また出し抜くために何をするか。

・理想主義の科学者と現実主義の技術者の考えをどう一つにまとめるか

・限られた予算と厳しいスケジュールをクリアするために何を残し、何を切り捨てるか

・探査ミッションを果たした上で、危険なく着陸させる場所の選定をどうするか

 もう読んでいて息苦しくなるくらいです。

 でもやはり、読んでいて興味深いのは、技術的な課題をクリアしていくくだりです。最大の課題は、無事着陸させ火星の厳しい環境に耐える強度を保ちつつ、いかに機器を軽量化するかですが、その都度メンバーからアイデアが出て、クリアされていくところは技術者の凄みを感じます

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 両機は無事着陸に成功しますが、喜びに浸る間もなく通信の中断や伝送されてくる画像への失望 火星時間にあわせた業務からくるスタッフの疲労等、様々な試練が押し寄せてきます。それでも、水があったことを証明するような赤鉄鉱の画像データが両機から送信されるなど、ミッション達成に相応しいデータがどんどん送信されてきます。

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 著者は、両機の予想以上の健闘を称え、このような言葉で本書を締めます。

 今から100万年後、ジェット推進研究所もケネディー宇宙センターもコーネル大学も跡形もなく消え去ったあと、スピリットとオポチュ二ティはたとえ動きはしなくても火星でアルミニウムの表面を輝かせているかもしれない(火星は寒くて乾燥しているので金属が地球のように腐食しない) 何より誰かがローバーを又見てくれることを僕はひとえに願っている。愛するという言葉は慎重に使うべきで、ことに相手の金属の寄せ集めならなおさらそうだろう。それでも僕はスピリットとオポチュティを愛している

後世に残る仕事をしたい」というのは、人間の性(さが)ですが、私は何を残せるだろうか。そんなことを考えてしまいました。